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エミケン 「日報」

東京・奥多摩にある 注文家具工房『エミケン』 の日々です

2月16日 雪の雲取山

p20110216.jpg

昨日からふわふわした脳みそで考えていた。「雲取山はさぞ雪が積もって美しかろう」 思うと居ても立っても居られなくなった。だから行ってきた。

平時でさえ日帰りするには厳しいコースがこの大雪時にどうなるか。不安ではあったが行ける所まで行くつもりで出かけた。登山道入口から雪が膝下まであり、行程の困難を予感させた。

昨日の朝まで雪が降っていたわけだから、その後入山したのは何人もいないだろう。初入山で踏み跡がなければ登頂は不可能に決まっている。雪漕ぎだけは勘弁して欲しかった。果たして踏み跡はあった。物好きはいるものだ。

雪道の面白さは足跡が残ること。踏み跡は二つ、下山の足跡。この先何時間もこの足跡と付き合うわけだ。歩きながら彼らの行動を思い描いたりしていくうちに、不思議な連帯感を感じてくる。「雪の降る前に登って山荘で一泊したら銀世界だったのかな。いい経験したな」とか「果たして雲取山からか?七ッ石山からかもしれないな」。「いやいや昨日別ルートから入山しこちらへ下りてきたか?雪漕ぎして日帰りは無理だ」「あー、この踏み跡のおかげでこんなにサクサク歩ける。感謝!」などなど夢想はつきない。足跡の主と会話してるようで楽しい道中である。

登っていてしばらくして気が付いた。「あ、こちらからの入山はワシが初めてだ」

いくら踏み跡があっても平時と比べると時間はかかる。それでも積もりたての雪に険悪さはなく、適度なクッションと足場を選ばない気安さがあり、快適そのもの。なによりこの真っ白な純粋無垢な景色を独り占めしている優越感。天気は無風快晴。日が昇るにつれ汗ばんでくるが、その汗も流れることなくすぐさま引き締まった寒気に吸い取られる。いつもは暗く殺風景な植林の森も白く明るく美しい。木の上からサラサラと粉雪が舞い落ちる。そこに森の向こうからこちらを覗く太陽の光線が射しキラキラ輝く。

登るにつれ木が変わる。植林から葉の落ちた広葉樹林へ。明るさが増す。雪が深くなる。視界が利き遠方の山々が木々の間から見えてくる。ひときわ大きくひときわ白い塊が目に飛び込んできた。おお、日本の心。富士はやっぱり異次元の境地。なにもかもが他と違う。圧倒というよりも泰然、巨大というよりも雄大。自然と歩みが止まり見入る。そして何事か心の中で思う。何万年も前から繰り返されたであろう日本人の正しい反射神経。

尾根に出てはっきりとその姿を見せてくれた富士山。あたりはま真っ白、空は真っ青、その中に富士山が鎮座。この景色は今日しか見れまい。拝まずにはいられない。しかしここからが永かった。雪は膝上、場所によっては腰近くまである。相変わらず下山二組の足跡はある。先ほど七ッ石山への分岐に天幕跡があったので、一昨日入山しここで露営。一晩で雪景色に変わりその中雲取へ往復し鴨沢へ下山したものと推測された。お疲れ様でした。七ッ石山への踏み跡はまだなかった。当初「雲取が無理なら七ッ石山だけでも」と考えていたが、とてもじゃないけどここを雪漕ぎする気にはなれない。逆にここで雲取への踏み跡がなくなり、七ッ石山にだけ踏み跡があったら。。。?悔しいね。この好天に雲取まで行かないのはなんとも悔しい。頑張ったかな。

雲取までの尾根歩きは左手に富士を含む雄大な景色を堪能しつつの贅沢極まりないコースだが、本当に長い。雪がなければもっと楽だろうがそれではこの景色にはありつけない。頑張った甲斐があるのだ。しかし長い。何度も心が折れそうになり「山頂に行ってもこの景色と大して変わらないだろう。ここでいいだろう」とあきらめ心が首をもたげる。しかも時間は予定よりもだいぶ遅い。この分だと山頂着13時。ラーメン食って下山開始が14時。雪を見積り道中は4時間。駐車場着は18時か。もう暗いね。そしてきっと急速に寒くなるね。あくまで順調に行っての話。なにかあればもっと遅れる。かといってここまで来て引き返す勇気はない。こんな極上な時間はそうない。もっと楽しんでいたい。最悪山小屋もあるし、と考え歩き続けた。

奥多摩小屋の主人がラジオを聞きながら薪を切っている。この人にはこれが日常。なんとも優雅な暮らし。ここからの登りがキツかった。雪だ景色だ富士山だ、という煩悩は消え去りひたすら目の前の踏み跡を追うのみ。たまに顔を上げると白い稜線の向こうにようやく雲取の避難小屋が見えてきた。近くもあり遠くもあり。もう行くしかない。

予定通り(?)13:02山頂着。絶大なやり遂げた感。富士山がますますデカい。丹沢、真っ白な南アルプス、ちょびっと八ヶ岳、浅間山、立川の街、その向こうの街、、、まったく下での景色とは違う。ここでしか見れない絶景だった。来てよかった。

湯を沸かしラーメンを作る。急いでいるならこんなこと省略すりゃいいのに。不思議とこの時あたりから「なんとかなるだろう」という気が満々だった。ゆっくりラーメンとおにぎりを食う。満腹。ちと食いすぎた。ガスって来たようで景色がかすんできた。もうさっきまでの極上な景色は拝めない。よかった。

13:50下山開始。「さぁ何時に着くか。万が一暗くなってもライトもあるし、道も分かりやすいから何の問題もない。」さっきまでのネガティブ思考が真逆になっていた。お、下山は快適だ!まるで富士山の須走りを下っているような一粒で300mならぬ、一歩3m。雪が衝撃を吸収してくれるので負担も少ない。これは結構早いんじゃない。ただし調子に乗って滑落などしたら「はい、それまーでーよー」

無休憩で走り続け、駐車場着が16:47。三時間切り!快適とは言っても最後はかなり脚が痛かったけど、この快挙と明るい時間に下山できた安堵で霧散。終わりよければ全て良し。素晴らしい、実に素晴らしい雲取山登山だった。

0523氷川城発(車)-0625鴨沢駐車場発-1302雲取山着-1350雲取山発-1647鴨沢駐車場着

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  1. 2011/02/16(水) 23:03:30|
  2. 山登り
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エミケン ケン

Author:エミケン ケン
www.emiken.com
東京・奥多摩 「氷川城」城主。
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